第1回
水道を使う初期消火道具として最大の課題は、「高性能放水ノズル」の製作でした。初期段階から多くの時間を費やしながら、水道水=冷却効果を追っかけていました。短時間で圧倒的な消火放水力を発揮するノズルが本当にできるのだろうか?それには、まず、圧倒的な消火放水とは?このテーマから取り組み始めました。蛇口からの限られた水量、水圧。電気もポンプも全く使用せず消火効果のある放水。遠くへ水を飛ばす場合、一般的にはホースの先を絞ります。しかし、反面水量が減る。ただ遠くへ飛ばすだけではない。水量を減らさないのが前提。水道の水量を最大限活用して水を遠くへ飛ばせれば水道も初期消火の道具として必ず役にたつ。この信念でした。
しかし、この簡単そうで難しい疑問に対し、私の消防設備の知識の応用では全く役に立たないことが初期段階 で分かりました。生活に身近な水に何かいい方法があるのか? 特殊な効果? そこで、消防業界以外の工業新聞や水や機械関係の新聞、雑誌を読み漁り、その中からある特許記事の内容に目が留まりました。その製品の用途は消火とは全く縁のない洗浄と節水が目的の技術でしたが、その高機能の源となる特殊な作用は私が初めて知る水の作用でした。その原理の仕組みや効果の内容はまだ十分理解していませんでしたがピンとくる何かがあり、すぐに東大阪市のその会社に電話をし技術の提供や協業の相談をしたのでした。
その時点では、求めていたいくつかの研究課題の一つくらいは解決してくれるものと期待をしていましたが…
それでは、私が初めて知った、その水の作用とは。何でしょうか。
第1の技術 (参考:製品パンフレットの中開き右ページ中段、開発ノズル右の絵)
水が流れる筒の途中に穿孔を設けて水を勢いよく通すと穿孔のパイプ内側に“負圧”が発生します。すると、外の空気が負圧で引っ張られ勢いよく筒の中に入って行きます。そして、その空気(バブル)と筒内の水流が混在状態で押し出され、より勢いがつき筒先より放出されます。
近年この原理を活用した生活用品や工業品が多く出回っておりますが、今から14年前にその会社はすでに製品化しており、その技術による製品の優秀さの記事に私は魅せられたのです。しかし、その会社の製品は洗浄と節水と言う日常の目的でしたが、こちらは“初期消火”と言う非日常の責任ある難しい目的であった為、その原理の応用が利くのかどうかは全く未知の世界でした。その為、すべてこちらの設計責任である旨を双方で了解したうえで研究の協力を得て始まりました。
この原理が水を遠くへ飛ばす効果の基本でありで高機能の所以となっています。遠くへ水を飛ばす必要性は説明するまでもありませんが、燃えている火の輻射熱と恐怖心などから最初は遠くからの放水が求められます。これが第一の課題でした。
現製品までには大きく1回モデルチェンジがありました。当初の目的である遠くへ飛ばす技術はある程度達していましたが、絶対的な水量に満足できず、基本設計から変えました。初期の 消火実験としては60点程度でしたでしょうか。それでも、一般の散水ノズルより消火効果が高いことは実感していました。その機器が左写真です。この3本も先端の放水口のサイズは異なっております。
初期モデルが10穴で口径が小さかったため、水道量を最大限使用できるよう口径を大きくし、放水口の数を減らす方向に切り替えました。この設計変更で放水量が約30%アップしました。筒先を絞る原理ではないため、水量が確保でき水を一気に燃焼物に水をかけることが可能になりました。その次は、その水を消火効果の高い放水にするには? 有効な放水面積は? この検証ではまず何度も放水状態だけでの確認を行った後、試作ノズル3本(放水口径違い)を製作し消火実験での検証にてベストの組み合わせを見つけました。
放水形状は5本のノズルの穿孔の位置と径、筒内の加工、ノズル口径の組み合わせそしてノズルチップの広角度合いそれらを併せてベストの効果を発揮する組み合わせとなっています。5本の筒の径も2㎜単位で製作しております。それらの組み合わせは消火実験の現場でも何度か入れ替えながら行ってきました。その中で見つけた組み合わせです。
この高機能放水の原理の確認は容易に行えます。完成品は外周カバーがついていますが、ついていない状態で、各ノズルに2か所ある穿孔をしっかりと指で塞ぎ放水します。そうしますと、穿孔をふさいだノズルは他のノズルの半分程度しか放水力が出ません。飛びません。その後、指を離すと通常の勢いのある放水となります。一目瞭然です。これで原理の確認ができました。 以上が第1回の内容でした。
第2回
第2の技術
第1回で、遠くへ放水する技術が放水量も確保できることを説明いたしました。そのことは、同時に大きな面積の放水も可能にしました。燃焼物に短時間に十分な水量を広い面積で放水できることは初期消火に大いに効果あるものと確信いたしました。点ではなく面での消火。この有効性も第1の技術があったからこそです。
では、その第2の技術ののご説明を。
この道具は一般市民の初期消火作業であるため消防用噴霧ノズルのように放射角を可変にする必要はないと最初から決めておりました。つまり、最初から広角にして放水したい。そこで、ノズルの角度を若干外側に開いております。写真でもわかりますように、外周のノズル4本はセンターのノズルと平行ではありません。この加工技術も高い精度が求められます。平行にしますと途中で水同志が引っ張り合い雑にまとまり面積が確保できません。この技術も簡単ではありませんでした角度もノズルベースの形状も最大限水流が抵抗少なく有効に放出される為の計算がありました。
第1と第2の技術の検証はその都度放水し、いい結果を消火実験。この繰り返しでした。その頃には、放水状態で消火効果が高いか低いかがわかるようになりました。
初期の消火実験は、大阪の消防機器メーカー株式会社初田製作所をお借りし、後半は消防庁、消防研究センターにて正式な消火第一模型を20台以上燃焼させ消火の検証を行っております。
これら最大の課題が解決する手ごたえを得たころから、製品化のための次の課題それはホースでした。火災時に使用するわけですから、放水中に水が止まることは許されません。どのようなことがあってもねじれたりつぶれて水が止まることのないホースを探さねばなりませんでした。この、課題は思っていたより難しく一般的な量販店では見つからずインターネットで多くのメーカーと製品について打ち合わせ、ようやく願いにかなう機のものを見つけました。一般的な店舗には販売されておらず、手に入れるのに苦労しましたが、消火作業での使用を伝え、メーカーの担当者と直談判の結果こちらの主旨を理解していただきました。テスト用に分けてもらいテストをした結果は見事に合格でした。当時の会社の倉庫には多くのメーカーから取り寄せたテストホースで棚が一杯でした。この社内テスト方法も独自に考えて行いました。使用ホースは優秀で評価が高く、小学生一クラス全員がホースの上に乗っても放水は変化しません。紫外線照射の加速度試験や0℃と60℃の恒温槽に24時間入れ、その後の取り出し作業でも支障がないこと等、厳しい試験も行いました。残りの部分は、ホースの接続部分と操作の仕組みや収納方法の検討でした。この課題の検討中もかなり問題がありましたが、製品化と販売の開始がようやく見え始め部内も大いに盛り上がりました。
第3 回 製 品 化
一番の課題であった先端ノズルが解決し、ホースの選定も終わり後は操作上の仕組みでしたが、これが結構難題でした。容易に素早く放水態勢が整うには? 女性やお年寄りも使用者と考えておりましたので、いくつかの収納箱を製作し、実際に使ってみながらの改良でした。正直なところ初期の製品はいま見ても取り扱いづらいのがわかります。何度かの試作後、「街かど消火栓」が完成しましたが、まずは特殊効果のノズルありきでしたのでした。正直ここまで高性能を発揮するとは思ってもいませんでした。
この、高性能特殊ノズル「バブルンジェットノズル(BJノズル)」の成功があったからこそ、その後の製品化も可能になりました。この製品の共同開発者は東大阪市のベンチャー企業イーシーテクノ(株)です。私の大切なビジネスパートナーとして今でも意見交換を行っておりますが、消防・防災とは全く縁がない洗浄や節水器具関係で特許を取得しています会社です。この話も興味あるはなしがありますが長くなりますのでまたの機会に。
ノズルとホース以外の部分も結構苦労しており工夫を重ねております。例えば、ホースの取り出し方法です。ここも特許を取得しておりますが、これもまたの機会にします。
以上が「街かど消火栓」「街かど消火ハリアー」に使用しています高性能ノズルとその他の技術の開発秘話(の一部)です。